肥料コスト低減の取り組み

  当社の主作物であるブロッコリーやトウモロコシの生産に必要不可欠な肥料は、その原料の多くを海外に依存しています。ウクライナ侵攻による影響で、その肥料価格が高騰し、長期的な供給についても懸念が広がる中、将来にわたって良質な農産物を安定的に供給していくためには、こうした影響を受けにくい生産体制づくりを早急に進めることが必要になりました。
  特にそのほとんどを輸入に頼っている化成肥料は、今年に入って価格が約2倍になっており、早急に国内で生産可能な肥料や堆肥、地域資源を活用した肥料に転換していく必要がありました。
 しかし、長年の経験から作り上げてきた施肥体系を変更するのはリスクや不安を伴うため、外部の専門機関と協力しながら肥料コスト低減体系への転換を進める取り組みを進めました。
 まず取り組んだのは圃場の土壌診断をしっかりやるということでした。今までは圃場数も多く場所も転々としているため、ほとんどの圃場は土壌診断することなく施肥体系の沿った肥料散布を行い、生育状態によって施肥量を若干調整する程度でした。しかし、施肥体系を変えるには現在の圃場の状態を的確に把握しておく必要があるため、今年度は全体の約1割にあたる49圃場について外部の専門機関に採土から分析までの作業を委託し、詳細な土壌診断を行いました。幸い、農水省の「令和3年度肥料コスト低減体系緊急転換事業(以下、肥料コスト低減事業)」を活用することができたため、土壌診断に係る費用負担は消費税分のみで済みました。

画像1:圃場での採土・土壌物理性測定の様子


 次に取り組んだのは汚泥発酵肥料の活用で、施肥体系の化成肥料の割合を減らした分を汚泥発酵肥料で代替するようにしました。汚泥発酵肥料については、外部の専門機関とも相談し、普通肥料登録があり長期的な供給体制が担保されているウルトラ・エックス(登録名称:フタバソイル、生第80447号、バイオシードテクノロジーズ株式会社)を採用しました。当社ではGAPに準拠した安全管理を実施しているので、肥料成分および安全性(重金属や一般生菌汚染リスク)が担保されている点を重視しました。また、汚泥発酵肥料についても肥料コスト低減事業を活用し、肥料コストに係る輸送費用負担が半額で済みました。

画像2:ブロードキャスターを使った汚泥発酵肥料の散布


 現在、肥料コスト低減事業を活用した49圃場は、新しく汚泥発酵肥料を活用した元肥散布が終了し、ブロッコリーの定植を進めています。生育状態をみながら新しい施肥体系で肥効が十分でない場合、追肥で調整することになりますが、現時点で慣行の施肥体系に比べて40%強のコスト低減になっています。

 今回外部の専門機関と相談して土壌診断で取り入れたのは「作土深」で、ほとんどの土壌診断や肥料設計の専門書を見ると施肥量を作土深10cmが基準になっており、作土深が10cmより深ければ施肥量は多く、浅ければ少なくするよう指導していますが、実際に圃場で作土深を測定しているケースは稀です。作土深については、Agsoil株式会社(以下、Agsoil社)に依頼し、採土と同時に土壌硬度計(大起理化工業社製)による土壌物理性測定と診断をお願いしました。

画像3:土壌物理性診断例(測定及び分析・診断はAgsoil社)


 その結果、圃場によって作土深(Agsoil社では特性深度と表現)は深い・浅いがあり、また同じ圃場内でも測定場所によってばらつきがあることも数値化することができました。施肥体系との連携では、作土深の深さによっても施肥量を調節しました。一部過剰肥料の判明した圃場については、プラソイラーなどの作業機を使って作土深を深くすることで過剰な状態を解消することも検討しています。
 また「作土深」と同じく土壌診断や肥料設計の専門書は、「仮比重」で施肥量を調整するとしていますが、今までの土壌化学性診断では仮比重を測定していませんでした。今回は土壌化学性の分析を依頼した株式会社川田研究所(以下、川田研究所社)に「仮比重」の測定もお願いしました。

画像4:土壌化学性診断例(分析は川田研究所社、診断およびグラフはAgsoil社)


 ブロッコリーの収穫は11月以降になるため、今回の汚泥発酵肥料を活用した新しい施肥体系の評価はまだ先になりますが、現時点では肥料コストは目標以上に低減することができているため、今後は対象圃場の拡大や定期的な土壌診断の実施により、化成肥料に依存しない生産体制の構築に向けて取り組みを進めていこうと考えています。

2022年9月10日 株式会社大濱屋

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